- 筆耕を始めたばかりで、とにかく実績が欲しい
- 依頼が来たら、多少無理でも受けたほうがいいのでは…と迷っている
- 「断る」という選択が、正しいのか分からない
筆耕を始めたばかりの頃ほど、こんな気持ちを抱えがちではないでしょうか。
私自身も、筆耕を仕事として始めた当初は
「せっかく声をかけてもらえたのだから断りたくない」
「今は実績を積む時期だから、とにかく受けるべきなのでは」
そんな思いを何度も感じてきました。
けれど、筆耕の仕事を続けていく中で、すべての依頼を受けることが必ずしも自分のためにもお客様のためにもならないという場面に、何度も直面するようになります。
筆耕は、ただ文字を書くだけの仕事ではありません。
技術面はもちろん、依頼内容への理解、対応できる量や納期、そしてお問い合わせから納品までの「やり取り」も含めて、トータルで評価される仕事だと感じています。
この記事では、筆耕を始めたばかりの方、これから筆耕の道に進みたい方に向けて、「筆耕の仕事をお断りする」という判断を、どう考えればいいのか私自身の経験を交えながら整理していきます。
断ることがゴールではありません。
興味のある仕事にチャレンジする大切さも含めて、「長く筆耕を続けるための判断軸」を一緒に考えていきましょう。

1級賞状技法士・筆耕士 かおりんご
- 書道歴26年以上
- 5歳〜17歳:書道
- 2011年〜:実用書道(2016年に賞状技法士1級取得)
- 2025年9月〜フリーランス筆耕士として活動開始
- 現在、毛筆書写技能検定にも挑戦中!
- インスタグラムでかおりんごの筆文字動画を投稿中!
賞状技法士1級認定証書

筆耕士になりたての頃ほど「断れない」と感じやすい理由

筆耕の仕事を始めたばかりの頃。
依頼が1件届くだけで、心が大きく動きます。
「やっと仕事として見てもらえた」
「自分の字を必要としてくれる人がいる」
そんな気持ちになるのは、とても自然なことです。
だからこそ、依頼を断ることに強い抵抗を感じやすくなります。
なぜ、断れなくなってしまうのか
筆耕士になりたての頃は、次のような思いを抱えやすいタイミングでもあります。
- 実績がまだ少ない
- 今は仕事を選べる立場じゃないと思ってしまう
- 断ったら、もう次は来ないかもしれないと不安になる
これらは、技術の問題というより、立場と経験の問題です。
かおりんご私も最初は、“実績を積めるなら受けたほうがいい”と思っていたよ。
さらに筆耕の仕事は、「どこまでできれば引き受けていいのか」という基準が、とても分かりにくい仕事でもあります。
- これは自分の実力で足りるのか
- 本当に求められている書風にできるのか
- 仕上がりに責任を持てるのか
こうした判断は、経験が浅いほど難しく感じるものです。
その結果、迷いながらも引き受けてしまうという状況が生まれやすくなります。
断れない一番の理由は、「実績が欲しい」という気持ち。
それは、筆耕士になりたてなら、誰でも抱く感情です。
この章で伝えたいのは、「断れない自分は未熟だ」という話ではありません。
むしろ、実績を積みたいと真剣に考えているからこそ、断れずに悩んでしまうのだと思います。
だからこそ、この先で必要になるのが、「すべてを受けなくても大丈夫」と判断できる視点です。
すべての依頼を受けることが、信頼につながらない理由


結論からお伝えします。
すべての依頼を受けることが、必ずしも信頼につながるとは限りません。
なぜなら筆耕は、「引き受けたかどうか」ではなく、最後まで責任を持って対応できたかどうかで評価される仕事だからです。
筆耕は、仕上がりだけで完結する仕事ではない
もちろん、一番大切なのは、ご依頼いただいた内容を美しく仕上げることです。
ただ、筆耕の仕事はそれだけではありません。
- ご相談への対応
- 内容のすり合わせ
- 進行中のやり取り
- 納品までの安心感
こうしたお取引の過程すべてを含めて、仕事として見られています。



書くことだけじゃなくて、“どう向き合ったか”も見られてる仕事だと思ってるよ。
技術・量・対応のどれかが欠けると、信頼は崩れやすい
筆耕の依頼には、
- 書体や表現の難易度
- 作業量や枚数
- 納期ややり取りの密度
といった、さまざまな要素が含まれています。
これらのうち、どれか一つでも無理がある状態で引き受けてしまうと、
- 仕上がりに不安が残る
- やり取りが雑になってしまう
- お客様に不安を与えてしまう
といった結果につながりかねません。



全部受ける=ちゃんと向き合える、とは限らないんだよね。
信頼は「数」ではなく「一つひとつの積み重ね」
筆耕の仕事では、一度きりの依頼よりも、「またお願いしたい」と思ってもらえるかどうかが大切です。
そのためには、
- 無理のない範囲で
- 責任を持てる内容に
- 丁寧に向き合う
この積み重ねが欠かせません。
すべてを引き受けることよりも、一つひとつの仕事に、きちんと責任を持てること。
それが、信頼につながると考えています。
私が筆耕の仕事をお断りするときの判断基準3つ


ここまでで、すべての依頼を受けることが、必ずしも信頼につながるわけではない、というお話をしてきました。
では実際に、私自身はどんな点を基準にして「お受けするか」「今回はお断りするか」を判断しているのか。
ここでは、私が筆耕の仕事をお断りするときに大切にしている判断基準を3つ、考え方として整理してお伝えします。
技術的に、安定した仕上がりを提供できる内容か
筆耕の依頼では、
- 書体(楷書・行書・草書など)
- 書風や雰囲気の指定
- 文字の配置や全体のバランス
など、求められる内容が一つひとつ異なります。
「一応書ける」「練習すれば対応できそう」という段階で引き受けてしまうと、仕上がりに迷いが出たり、最後まで不安を抱えたまま作業を進めることになりかねません。
私が基準にしているのは、責任をもって、一定の品質を再現できるかどうか。
この一点です。



“できそう”じゃなくて、“任せてもらって大丈夫か”で考えてるよ。
発注量に対して、一人で現実的に対応できるか
2つ目は、発注量に対して、自分一人で対応できるかどうかです。
個人で筆耕をしている場合、
- 作業をすべて自分で行う
- 協力者がいない
- 作業時間に限りがある
という前提があります。
そのため、「この枚数をこの納期で無理なく丁寧に仕上げられるか」を冷静に考える必要があります。
量そのものが問題なのではなく、自分が責任を持てる範囲かどうか。
ここを曖昧にしたまま引き受けることは、後々のトラブルにつながりやすくなります。



量が増えたときほど、“本当に回せる?”って一度立ち止まるようにしてるよ。
作品だけでなく、お取引全体に責任を持てるか
3つ目は、仕上がりだけでなく、お取引全体に責任を持てるかどうかです。
筆耕の仕事では、
- ご相談への返信
- 内容の確認やすり合わせ
- 進行中のやり取り
- 納品までの安心感
こうした過程も含めて、お客様は「お願いしてよかったか」を判断します。
技術や作業量に無理があると、どうしても対応に余裕がなくなり、結果として不安を与えてしまうこともあります。
その状態で引き受けることが、本当に誠実な対応と言えるのか。
私は、そこも含めて考えるようにしています。



作品だけじゃなくて、やり取りまで含めて“ちゃんと向き合えるか”を大事にしてるよ。
実際に私がお断りした筆耕依頼の話(体験談)


ここでは、私自身が実際に「今回はお受けしない」と判断した筆耕依頼についてお話しします。
どちらも、お受けしないと決断するまで少し悩みました。
結果的に、断ったからこそ守れたものがあったとも感じています。
会社員時代、発注量を理由にお断りしていた宛名書きの依頼
私がまだ会社員として働きながら、筆耕を副業で行っていた頃のことです。
当時、毛筆の封筒宛名書きを「100枚お願いできますか?」というご相談をいただいたことがありました。
長年実用書道をやっている身からすれば、内容自体は特別に難しいものではありません。
ただ、そのときの私は、
- 100枚を書くのに、どれくらい時間がかかるのか
- 仕事後や休日の時間で、本当に対応できるのか
この感覚を、まったく掴めていませんでした。
一度に大量の宛名書きをした経験がなく、「できそう」「何とかなるかも」という感覚だけで判断することに、強い不安がありました。
そのため当時は、ご相談をいただいても、お受けしないという選択をしていました。



量を判断できないまま引き受けるのは、正直こわかったんだよね。
その後、会社員を辞めて筆耕会社で働くようになり、ある程度まとまった量の宛名書きを実際に経験しました。
経験を重ねる中で、「この枚数なら、これくらいの時間」「この量なら、このペース」といった感覚が、少しずつ自分の中に蓄積されていきました。
そして、「この量なら、責任をもって対応できる」と判断できるようになった段階で、同じような依頼を受ける決断をしました。
当時は「できなかった」のではなく、「判断できなかった」だけ。
断るという選択も、必要なプロセスだったと感じています。
技術面を理由にお断りした、草書模写の依頼
もう一つは、比較的最近の体験談です。
草書主体の一行書について、「元作品の書風をできる限り忠実に再現してほしい」というご相談をいただきました。
文面からは、作品に対する強い思い入れや、大切にされているお気持ちが伝わってきました。
その分、求められている完成度も高いと感じました。
私自身の筆耕の専門は、実用書道を軸とした楷書、および楷書をやや崩した行書です。
草書主体の一行書を、元作品の書風に極力近づけて模写する、というご要望については、現時点では十分な再現性をお約束できないと判断しました。
また、仮にお引き受けした場合でも、
- 書風研究や練習に多くの時間が必要になる
- ご予算や納期に見合う品質を保証できない可能性がある
そうした懸念もありました。
そのため、お受けできない理由を正直にお伝えしたうえで、もし私の専門範囲内で対応可能なご依頼がありましたら、またお気軽にお声がけくださいという言葉を添えて、お返事をしました。



お断りはしたけど、気持ちにはちゃんと寄り添いたかったんだよね。
すると、
「とても誠実に対応してもらえて嬉しかった」
「次にマッチする筆耕があれば、ぜひお願いしたい」
というお言葉をいただきました。
実際に、その後のご依頼につながっているかどうかは、まだ分かりません。
ただ、お断りするという結果になったにもかかわらず、後味よくお問い合わせ対応ができたという手応えは、確かに残っています。
お受けできない場合でも、向き合い方は選べる
この二つの経験を通して感じているのは、断ること自体が問題なのではないということです。
- なぜ難しいのか
- どこに責任を感じているのか
- 相手の思いをどう受け取ったのか
それらを丁寧に言葉にすることで、「断られた」という印象ではなく、「大切に扱ってもらえた」という感覚を残すこともできるのだと感じています。



断るかどうかより、どう向き合ったかのほうが大事なんだと思うよ。
断るという判断は、勇気のいる選択です。
ただ、無理に引き受けるよりも、誠実に向き合った結果の「お断り」のほうが、自分自身も納得できます。
断る勇気を持つために、私が大切にしている考え方


ここまでで、私が実際にどのような判断をして、どんな依頼をお断りしてきたのかをお伝えしました。
最後に、そうした判断を重ねる中で、私自身が大切にするようになった「考え方の軸」について書いてみたいと思います。
判断に「正解」があるかどうかは、その時点では分からない
依頼を受けるか、断るか。
その判断に、その場で分かる正解があることは、ほとんどありません。
- あのとき受けていれば、どうなっていたか
- 断らなかったら、結果は違ったのか
それは、あとから振り返ってみないと分からないことです。
だから私は、「正解だったかどうか」よりも、「その時の自分が納得できた判断かどうか」を大切にしています。
「納得できる判断」は、自分をすり減らさない
無理に引き受けた仕事よりも、悩んだ末に断った判断のほうが、後から振り返って気持ちが軽いことがあります。
それは、自分の限界や責任範囲を無視していないからです。
たとえ結果がどうであっても、自分なりに考え抜いた判断は、自分をすり減らしません。



無理して受けた仕事より、ちゃんと悩んで断った判断のほうが、あとで納得できることも多いよ。
断った経験も、判断力を育てている
断るという選択は、何も生まないように感じてしまうかもしれません。
でも実際には、
- どこが難しいと感じたのか
- 何に責任を持てないと思ったのか
そうした振り返りが、次の判断材料になっています。
受けた経験だけでなく、断った経験もまた、筆耕士としての判断力を育てていると感じています。



断った経験があるから、次は“ここなら受けられる”って分かるようになるんだよね。
断る勇気は、前に進むための判断
断ることは、立ち止まることではありません。
自分の今の立ち位置を確認し、無理のない一歩を選ぶための判断です。
そう考えると、断る勇気は後ろ向きな選択ではなく、前に進むための選択だと思えるようになりました。
断る勇気は、筆耕を続けるための力になる


この記事でお伝えしたかったことは、大きく分けると、次の3つです。
- 筆耕の仕事は、すべての依頼を受けることが正解ではない
- 技術や発注量、やり取りまで含めて、責任を持てるかどうかが大切
- 断るという判断も、筆耕士として前に進むための選択のひとつ
断ることは、決して「逃げ」ではありません。
自分の今の立ち位置を理解したうえで、誠実に仕事と向き合うための判断です。
一方で、興味のある仕事や、やってみたいと感じる依頼にチャレンジしてみることも、とても大切だと思っています。
大事なのは、断るか、挑戦するか、そのどちらかを選ぶことではなく、自分で考えて選ぶこと。
無理をしない判断も、一歩踏み出す決断も、どちらも筆耕士としての経験になります。



迷いながら、考えながら、自分なりの基準を育てていけば大丈夫!!



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